2020年6月13日土曜日

ボーダーと浮浪雲

『浮浪雲』は私にとって大切な本だった。
思春期にありがちな悩みを抱える私に中学の恩師が紹介してくれた。
それ以来、出版されている本はすべて集めた。
その第1~3巻の文庫版を買った麻布の小さなビルに入った本屋の内装やレイアウトを今でも思い出すことができる。
最初は、キャラの設定も、物語の主張もいい加減で、恩師がなぜ私に薦めたのか理解に苦しんだ。
しかし、3巻以降はぐいっと内容に引き込まれることが多かった。
特に、10巻までは「人情話」の様相が色濃く、非常に面白かった。
それ以降は、仏教思想や老荘思想の影響を感じさせる作風に変化していった。
私は、哲学書を読むように浮浪雲を読んだ
最終的には、112巻まで発刊されたようだ。
私は70巻までの読者なので、古くから中期に至る読者ということが言える。
後半は週刊連載に時々目を通すくらいだったが、それを見る限りでは、以前の作品を焼き増ししているような印象だった。
しかし、私の人生の一時期を救ってくれたことには違いない。

『ボーダー』も私の人生に欠かせない本だ。
意欲が下がったり、新しいことに挑戦するときには度々読み返し、自分を奮起させていた。この本がなかれば、私はいくつかのことをしなかったに違いない。
この本は、浪人時代入り浸っていた喫茶「Duke」のマスターが紹介してくれた。
Dukeは、私にとってコーヒー一杯の居場所以上の意味があって、人生の教科書みたいなところだった。そこで、ボーダーの他にも、蛭子能収や泉昌之の『かっこいいスキヤキ』に出会ったりした。

ボーダーも初期には、キャラが定まっていなかった。
しかし、後半主人公がブルーハーツに出会ってからは、スピードを上げ話は展開する。
胸にある熱いものを、お前も誰かに渡せと、主人公は読者に迫ってくる。

その後、私は狩撫麻礼の本を恐らくすべて読んだ。狩撫は、私にとっての聖書だ。

狩撫麻礼もジョージ秋山も鬼籍に入ってしまった。

私に何かを与えてくれた人も物も、もう遠くに行ってしまった。

それらに出会ったころの、ある種の潔癖さも、私は失ってしまった。

私は、浮浪雲にも、蜂須賀にもなれなかった。

そして、私は、いま私にさえなれないのかも知れないと、思っている。


0 件のコメント:

コメントを投稿

『人間関係の「ピンチ!」自分で解決マニュアル: マンガでわかる 10代のための』刊行

  人間関係の「ピンチ!」自分で解決マニュアル: マンガでわかる 10代のための | 山田 洋一, 明野 みる |本 | 通販 | Amazon 筆者のはじめての児童書です。本当に苦しんでいる子どもたちに直接言葉を届けたい。 もしよければ、教室に一冊おいていただきたいです。 内容...