2013年4月15日月曜日

エピソードで語る教師力の極意


 私は、小学校の教師として始めて転勤した年、父を火事で亡くしている。
 理不尽な父ではあったが、私が小学校の教員採用試験に合格した折には、実に普通の父親のように、無邪気に喜んでくれた。
 そんな父が、小学校の教員になった私に掛けた言葉がある。
「落ちこぼれだったことを忘れるな」という言葉である。
 父は続けて、「お前は、保育園のときに、縄跳びができない子だった。保育園で一番最後にできたのがお前だった」と私に語って聞かせた。
「なにを、いまさら二〇年も前の話を持ち出して」と私は内心腹を立てた。
 腹立たしさも相まって、このときの状況も、父親のちょっと笑ったような横顔も、鮮明に思い出せる。
 本書を執筆するにあたって、何度も思い出したのが、この父の言葉だった。
 私という教師の来歴は、実に失敗の連続だ。
 失敗をして、そして身にしみて反省し、改善のための方法を模索して、なんとか解決をする。
 解決ができると、今度はすぐにまた思い上がって自分を過信する。すると、それをたしなめるように、次の失敗が起きるということを二〇年間続けた気がする。
 自分が失敗したことの苦さを忘れなければ、次の失敗も予防することができるだろうし、失敗した人の気持ちも理解できるだろうにと思う。
 しかし、私は、そういう理想の人生を歩んでは来なかった。
 何度も、何度も同じような失敗を繰り返してきたのだ。
「お父さん、やっぱり落ちこぼれでしたよ」と言いたくなる。
 しかし、「落ちこぼれだから、仕方ないんですよ。こういう前進の仕方しかできないのです。ですから、この調子でこれからも落ちこぼれとして学んでいきますよ、お父さん」と開き直るという手もある。
 そして、「ただね、お父さん、落ちこぼれですから、できない子の気持ちは分かるんですよ」とも言いたい気もする。
 いや、本当に伝えたいのは、「恵まれた教師人生です。こうやって、幼い頃からの自分の人生を見つめ返すと、教師になるために必要なことは、すべて与えられ、教師になってからも、私は落ちこぼれなりに、成長できるよう様々な方々と出会わせていただき、そして機会にも恵まれています。お父さんにも感謝しています」ということだ。
 この本を仏前に供え、父に捧げる。

(あとがき)より


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